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コラム、『 誤算から生まれたもの 』 〜 06/07シーズン チェルシー総括 〜

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 今シーズンのプレミアリーグは、マンチェスター・ユナイッテドがチェルシーの追撃をかわし、16回目のリーグ優勝を飾って全日程を終えた。終わってみれば今シーズンも"トップ4" が順当に来季のチャンピオンズリーグに駒を進めた。

 ここ数シーズンの欧州チャンピオンズリーグでの活躍もあり、欧州の頂点に返り咲いたとの声も上がっているプレミアリーグ。近年は外国人オーナーによるチームの買収が相次ぎ、次々と豊富な資金力を武器に世界中から有能な選手を集めている。今年に入ってからもリバプールが買収され、今シーズンを闘った20チームのうち、実に7チーム目の外国人オーナーが誕生したばかりだ。時に "金満" という言葉で揶揄されることもあるが、豊富な資金力はそれまで低迷していたチームを生まれ変わらせることも事実である。2003年にチェルシーを買収したロシアのアブラモビッチ氏は、近年プレミアリーグにおける一連の買収ブームに火をつけた存在だ。
 チーム創設100年を超えるチェルシーは、2003年にアブラモビッチ氏に買収されると、その豊富な資金力を武器に次々と優秀な選手を獲得し、一気に強豪へと生まれ変わった。そして翌年には欧州チャンピオンズリーグを制したFCポルトから、監督にモウリーニョ(ポルトガル=44)を招き入れたのである。彼の勝利への情熱と卓越した戦術は瞬く間にチームに浸透し、リーグ戦はもちろん、欧州チャンピオンズリーグにおいても常に優勝候補に名を連ねる常勝軍団へと変貌を遂げた。

 リーグ3連覇がかかる今シーズンも、開幕前にイタリアの名門ACミランよりシェフチェンコ(ウクライナ代表FW=30)を、ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンからはバラック(ドイツ代表MF=30)を加え、他にもカルー(コートジボワール代表FW=21)、ミケル(ナイジェリア代表MF=20)らと、確実に戦力補強を行った。さらにシーズン開幕後にはブーラルーズ(オランダ代表DF=25)を加え、A・コール(イングランド代表DF=26)の獲得に成功したことで、チェルシーの3連覇は僕の中で大きな膨らみを見せた。
 開幕後の第2戦で早くも敗れた時も「最初の2週間で2ポイントや4ポイントを失おうが、たいした問題じゃない。シーズンは10ヶ月あるんだ。」と、モウリーニョは言い切った。このコメントも今シーズンのチームに対する彼の大きな自信が伺え、それは選手やサポーターはもちろん、僕にもそう思わせるものだった。
 しかしA・コールの獲得に湧く一方で、ギャラス(フランス代表DF=29)がアーセナルへ移籍することなる。そして、ここからいくつもの誤算が彼らを苦しめることになった・・・。

 チェルシーでは主に左SBで使われていたギャラスだが、彼の本来のポジションはCBである。その守備力においては、ワールドカップドイツ大会でチームを準優勝へ導く一つの要因ともなっていた。しかしチームにはこのポジションにテリー(イングランド代表DF=26)とカルパーリョ(元ポルトガル代表DF=29)がいるため、ギャラスの希望は叶うことがなかった。そしてフラストレーションの溜まった彼のとった行動が、その後のチームと自身の間に大きな溝を作ってしまう。シーズン前から取沙汰されていたギャラスの移籍は、新たに獲得したブーラルーズがCBとSBもこなせる選手であったため、必然的と言えばそれまでだった。
 ギャラスを失った守備の不安は、まだこの時点では表立った問題ではなかったが、10月のレディング戦をきっかけに次々と表面化される。この試合にいつも通り出場した守護神チェフ(チェコ代表GK=25)が、ボールを奪おうとした相手選手と接触し、頭蓋骨陥没という重傷を負ってしまう。このピンチに第2GKであるクディチー二(イタリアGK=33)が交代出場するも、こちらもまさかの負傷退場。チェルシーは一夜にして世界に誇るGK陣を、2人同時に失ってしまったのである。衝撃的な2人の退場を目の当たりにしたチームは、守備にこれまで以上の意識を向けざるを得なくなり、それは守備に対する不安の始まりでもあった。
 マンチェスター・ユナイテッドとのマッチレースが色濃くなってきた12月、ここでもチェルシーにとっては思いがけない出来事が起こる。今度は守備の要であり、チームの中心でもあるテリーが離脱したのだ。怪我は2ヶ月間にもおよび、これによってチームは、守備にさらなる不安を抱えることとなった。
 予期せぬこの事態にモウリーニョは、DF経験のあるエッシェン(ガーナ代表MF=24)を急造CBに指名するものの、他のDF陣との連携不足は明らかであった。期待されたブーラルーズはモウリーニョの信頼を得られるまでには至らず、テリーも1度は復帰したものの再び離脱し、さらにはカルパーリョまでもが離脱してしまう。こうしてギャラスが去ったCBのポジションは、シーズンを通して不安定な状態を強いられる結果となった。
 しかし誤算はこれでだけではない。新加入を果たした選手の中で、目玉的な存在でもあったシェフチェンコとバラックは、新たな環境に戸惑いもあってかチームに順応することができなかった。期待された昨シーズンのような活躍は見せられず、高額な週給を稼ぐ彼らに対しての声援は、次第に厳しい言葉と疑問へと変わっていった。
 中でも2トップの一角を担うシェフチェンコは、対戦相手からの厳しいマークを余儀なくされ、得点を奪えない憂鬱な日々が続いた。彼の加入で変更になった新たなフォーメーションには順応できず、同じ2トップを組むドログバ(コートジボワール代表FW=29)の活躍する姿を、昨季までの自分と重ねてシーズンを送ることしか出来なかった。

 今世紀に入ってからマンチェスター・ユナイテッドとアーセナルによる2強の戦いに、2003年から生まれ変わったチェルシーが割って入り、プレミアリーグは世界中のフットボールファンから熱い視線が送られている。中でも、リーグ3連覇と欧州チャンピオンズリーグの制覇を目標に掲げていたチェルシーには、大きな関心が寄せられた。
 現代フットボールにおける揺るぎない独自の哲学を持つ監督と、個性溢れる贅沢な選手の顔ぶれは、ファンにとっては大きな魅力だ。その魅力は豊富な資金力から作られたものではあるが、見ている側にそれを忘れさせるだけの説得力を持っていた。理にかなった見事なフットボールを展開し、無類の勝負強さも兼ね備えたチーム。それが昨季までのチェルシーに対する個人的な感想だ。試合を見ていても彼らが負ける場面をほとんど想像できず、どこか計算尽くのようにも感じられる彼らのフットボール。その完成度の高さには、ジェラシーにも近い魅力を僕は感じていた。
 しかし今シーズンの彼らはどこか違っていた。シーズン序盤こそ彼ら "らしさ" を感じさせたが、次第に彼ら "らしさ" を失っていったのである。その原因は度重なる誤算によって生まれた、不安や焦りといった精神的なものが大きい。普段ポーカーフェイスの彼らが、額にいつもとは違う汗をかいていたことは確かであり、そうしたいつもとは違う汗が、対戦相手につけ込まれる結果として表れたのではないだろうか。
 今シーズンのプレミアリーグを振り返ってみても、2つのカップタイトルとリーグ戦で2位の結果を残したチェルシーはやはり強い。これだけのことがあったのにも関わらず、この成績を残していること自体が驚きでもある。しかし精神的に優位に立つことができず、 "らしさ" に欠けた彼らは、これをよしとは思っていないだろう。
 来シーズン "らしさ" を取り戻した彼らは、再び "金満" という言葉で揶揄されることになるかもしれない。だが "らしさ" を取り戻した彼らの勇姿が今から持ち通しいのも確かである。

 Written by MA-

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